コラム 上級向け

守備位置ごとの価値と打力の関係

2026-04-08

ポジションごとの補正値

WARでは、ポジションごとに補正値が設定されています。同じ打撃・守備成績でも、守れるポジションによって選手の評価が変わります。以下は主要3つのソースの補正値(年間フル出場、単位:runs)です。

ポジション別WAR補正値(rWAR)

3ソースの比較

  • 捕手: rWAR +9.0 / fWAR +12.5 / DELTA +18.1
  • 遊撃手: rWAR +7.0 / fWAR +7.5 / DELTA +10.3
  • 二塁手: rWAR +3.0 / fWAR +2.5 / DELTA +3.4
  • 中堅手: rWAR +2.5 / fWAR +2.5 / DELTA +4.2
  • 三塁手: rWAR +2.0 / fWAR +2.5 / DELTA -4.8
  • 右翼手: rWAR -7.0 / fWAR -7.5 / DELTA -5.0
  • 左翼手: rWAR -7.0 / fWAR -7.5 / DELTA -12.0
  • 一塁手: rWAR -9.5 / fWAR -12.5 / DELTA -14.1
  • DH: rWAR -15.0 / fWAR -17.5 / DELTA -15.1

ソースによって数値が異なるのは、算出方法とデータの対象が違うためです。詳しくは後述します。

各ポジションの役割と求められる能力

各ポジションに求められる能力を5項目で示します。◎=特に重要 ○=重要 △=あまり求められない

捕手(rWAR: +9.0) 肩◎ 守○ 知◎

配球の組み立て、フレーミング(際どい球をストライクに見せる技術)、ブロッキング(ワンバウンドを止める)、盗塁阻止の送球、投手とのコミュニケーション。求められるスキルの種類が最も多いポジションです。体への負担も大きく、膝や腰を痛めやすいため選手寿命にも影響します。

遊撃手(rWAR: +7.0) 走◎ 肩◎ 守◎ 知○

内野で最も広い守備範囲を求められ、正確で強い送球、素早い判断力、ダブルプレーの連携など、高い運動能力が必要です。「内野の花形」と呼ばれるポジションです。

二塁手(rWAR: +3.0) 走◎ 守◎ 知○

ショートと同じく広い守備範囲が必要です。ダブルプレー時のベース上での素早いターンが特徴的な技術です。一塁までの距離が近いため、ショートやサードほどの強肩を求められることは少ないですが、足さばきと判断力が求められます。

中堅手(rWAR: +2.5) 走◎ 肩◎ 守○

外野で最も広い範囲をカバーします。足の速さと打球の落下地点を瞬時に判断する能力が必要です。レフトやライトに比べてホームまでの距離が遠いため、肩力も求められます。

三塁手(rWAR: +2.0) 肩◎ 守○

「ホットコーナー」と呼ばれ、強烈なライナーやゴロが飛んでくるポジション。反射神経と一塁への強い送球が特に重要です。補正値はソースによって差が大きく、rWARでは+2.0ですがDELTAでは-4.8となっています。

右翼手(rWAR: -7.0) 走○ 肩◎ 守○

三塁への長い送球が必要なため、外野の中では強肩が求められるポジションです。イチローがライトの守備を芸術の域に高めたことで知られます。

左翼手(rWAR: -7.0) 走○ 肩○ 守○

三塁までの送球距離が短いため肩力がなくても務まることが多く、打撃力を重視した選手が配置されがちです。ただし、右打者の強烈な引っ張り打球や、左打者の切れていく独特の打球を処理する場面があり、実際には難しい部分もあるポジションです。

一塁手(rWAR: -9.5) 守○

打撃力が高い選手やベテラン選手が配置されることが多いポジションです。ただし、内野で最も捕球機会が多いポジションであり、サードと同様にバッターからの距離が近いため強烈な打球を処理する必要もあります。守備範囲は限定的ですが、送球を確実に捕る技術や足さばきなど、見た目以上に難しい部分があるポジションです。

DH(rWAR: -15.0)

守備を行わず、打撃のみに専念するポジション。守備の貢献がないため、WARでは最も大きなマイナス補正がかかります。

ポジション補正とWARについて

なぜ補正が必要なのか

同じ打撃成績でも、捕手でそれを達成する選手とDHで達成する選手は同じ価値ではありません。捕手を高いレベルで守れる選手は希少であり、その希少性を評価に反映するのがポジション補正です。

WARは「枠組み」であって単一の公式指標ではない

「WAR」という統一規格の指標は存在しません。 WARは「統計値(stat)」ではなく「枠組み(framework)」であり、各サイトが同じ思想に基づいて独自に算出しています。

  • rWAR(bWAR): Baseball Reference算出。MLB公式サイトでも採用
  • fWAR: FanGraphs算出。セイバーメトリクス分析記事でよく引用される
  • DELTAが算出するWAR: 1point02.jpがNPBのデータから独自に算出

補正値の算出方法の違い

どのソースも「ポジションごとの守備の価値の差」を数値化しているという点は共通しています。違うのは、その算出にどのデータを重視するかです。

  • rWAR(Baseball Reference): 打撃成績を重視しつつ守備データも併用。守備が難しいポジションほど打撃が弱い選手でも起用される傾向があるため、ポジション間の平均打撃成績の差が間接的に守備の価値の差を反映しているという考え方。加えてポジションを移動した選手の守備成績の変化も分析に含める
  • fWAR(FanGraphs): 守備成績を重視。複数ポジションを守った同一選手のパフォーマンスの差から算出
  • DELTA(NPB): 打撃成績と守備成績の両方を併用して算出(2020年〜、蛭川皓平氏による)

いずれも測っているものは「ポジションの守備負担の差」であり、算出のアプローチが異なるだけです。

どの手法でもポジション間の序列(捕手・遊撃が高く、一塁・DHが低い)はほぼ一致しますが、具体的な数値には差が出ます。

ポジションごとの打力の違い

rWARの算出方法からもわかるように、守備が重視されるポジション(捕手、ショート等)は平均打撃成績が低く、守備の比重が小さいポジション(ファースト、DH等)は平均打撃成績が高い、というデータ上の事実があります。

これは主にチーム編成の結果です。守備が重要なポジションにはチームが守備力を優先して選手を配置し、打撃力が高い選手は守備負担の少ないポジションに配置されます。rWARの補正値はまさにこの打撃差をデータとして捉えたものです。

もちろん例外はあり、守備指標でも高評価を受けるショートかつ強打者という選手も存在します。そういった選手がWARで極めて高い評価を受けるのは、補正値の高いポジションを高水準で守りながら打撃でも貢献しているからです。

補正値は変わるのか

基本的には固定値を使いつつ、定期的にアップデートされます。「毎年コロコロ変わる」ものではなく、数年単位でデータを蓄積して見直す性質のものです。

出典

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